アフリカのある地域には、ドラムで意思や情報を伝達するトーキング・ドラムがあります。ドラム・ラングウエッジとか、話し太鼓という呼び方もあります。
アフリカの言語は、音の高低がはっきりしているので、言語の高低、長短、強弱をドラムで模倣することによってメッセージにするのですが、子音を表現できないので、なんでも伝わるというわけではありません。送信者と受信者の間に数種のパターン認識が共有されていることが必要で、一般のアフリカ人がみんな理解できるというものではないのだそうです。
ではトーキング・ドラムの動画をどうぞ。
ドラムの音は10キロ先にも届くのだそうで、遠隔地への高速伝達能力は強力です。昔、キリスト教の宣教師が宣教の旅をしていくと、到着する前に情報が伝わっているのはよくあることだったそうです。
また、音楽の中にトーキング・ドラムを入れることで、密談に利用されるということもあったようで。それを恐れた植民地政府は、ドラム全体を禁止するということもありました。
それからもうひとつ、ブルキナファソのモシ王国の王の系譜の朗唱が、全部ドラムで行われるそうで、ドラムによる伝承の保存がされていることがわかります。
文字がない文化では、口伝によって代々の伝承が継承されますが、ハワイでは踊りが意味を持って伝わる文化があり、アフリカには太鼓のリズムと高低が意味を持って伝わる文化があるわけです。それらはどれも音楽的な体感を含んでいますが、このような何らかの体感に情報を載せる方法は、文字情報を扱う時とは異なる脳の部位を使って情報処理をすることになるでしょうから、きっと異なる理解と文明に結び付いていくのでしょう。
文字文明が進んでAIによる情報処理に覆われていくこの時代、体感による情報処理という分野は、AIの手が届かない人間に残された可能性を示唆しているような気がするのです。
参考文献・アフリカの音の世界 塚田健一著