満州の音楽でもうひとつ気になるのが「満鉄社歌」。これは、日本の社歌第一号とも言われています。満州社歌をまずはどうぞ。
歌詞はこちら。
１．東より 光は来る 光を乗せて 東亜の土に 使ひす我等 我等が使命 見よ 北斗の星の著きが如く 輝くを 曠野 曠野 万里続ける 曠野に
２．黎明を 破りて鐘は 朝を告げぬ 満蒙の野に 栄は共に 共にす希望（のぞみ） 知れ 高粱の波溢るる如く 満ちたるを 曠野 曠野 日は昇る 曠野に
３．喜びは 東亜の民と 日本の国の 先行く者の 共にす睦み 睦みの歌は 聞け 崑崙の峰撼がす如く 響けるを 曠野 曠野 山河歌へり 曠野は
我々は光からの使者であるというアイデンティティ、広大な大地を覆って行く感じ、日本とアジアの平和と繁栄の期待感、行進し続けてゆく曲調。この曲の背景には西欧諸国の植民地支配からアジアを解放すべきという正義感がありますから、この時代にこの曲を聞いたら、大抵の日本人は胸がときめいたことでしょう。冒頭の写真は満鉄のアジア号ですが、この格好良さとこの曲の勇ましさには、私の中にもいつのまにか気分が高まってくる感があります。
しかし、満鉄は日本の植民地経営の先駆けとなる国策会社でした。西欧の植民地支配からの解放を担う光の使者ゆえに大地を覆い尽くすべきという思想が日本の植民地支配を正当化する根拠になってしまうわけですから、そこには循環論法が入っていて、永遠に止まるところがなさそうです。このような正義の循環論法が戦争の車輪を回転させる駆動力となっていて、人類に戦争が止まらない一因なのかもしれないと思います。
歌詞の中に満鉄の進む力は一貫して表現されていますが止まる力は描かれておらず、ブレーキがどこにあるのかわからない機関車が暴走する危険をはらんだまま満鉄は走り出したのかもしれません。
