江戸小唄は「通」の音楽。
通とは、広い意味では人情の機微に通じているといったことですが、とりわけ遊郭や芝居小屋などの遊びの分野の知識と経験に長けている人を「通人」と呼び、それがわからない人は「野暮」、わかってないのに知ったかぶりをする人を「半可通」と呼んで、江戸っ子は野暮と半可通を嫌ったそうです。
このわかる人とわからない人の間に境界を引く考え方の背景には、幕府の統制の目をかいくぐって取締側にわからないように遊ぶという歴史が関係しているかもしれません。度々統制令が繰り返される歴史の中から、わかる人にしかわからない良さへのこだわりが生まれ、ひとつの美意識が生まれていくことは十分にありそうです。
話を音楽に戻すと、「みんなにわかって聞いてもらいたい音楽」ばかりでなく、「わかる人だけにわかってほしい音楽」、「わからない人にはわかってほしくないし、わかってたまるかと言う気分の音楽」という、いわば通のための音楽は世界に色々ありそうです。ジャズ、ブルース、ラップなど、差別を背景に持つ音楽にも似たような傾向があるかもしれません。
現代のおもしろさは、そういう「わかる人だけにわかってほしいし、わからないやつらにわかってたまるか」、と言う閉鎖系志向の音楽が、世界的にポピュラーな共感を得て広がるという逆転が起きているところだと思います。