あれこれいろいろ

音楽の使われ方 音楽という巨人の全体像

音楽学者のグレゴリーは社会での音楽の使われ方を次のように整理しています。(私が要旨を抜き書きしたので正確な再現ではありません)

・子守唄-音楽的特徴は滑らかに下降する旋律線やゆっくりしたテンポ、比較的単純な構造と繰り返し。全ての社会で子どもを落ち着かせる共通の要素。

・遊び-遊びのルールに従ってつけられた踊りやスキップ、その他の躍動的動きと関係。応答形式で作られた歌が多い。

・仕事歌-労働を効率よく行うために歌をつける。ヨーロッパでみられる海のはやし歌、アフリカ社会の畑仕事や粉ひきに用いられる歌、ジャマイカの集団での作業歌など。歌の形式は仕事とぴったり調和する。歌い方は応答形式で、音頭がソロでを歌うと一同が続く。これらの仕事歌はリズムを保ち単調さを和らげるために個人でも歌うことがある。

・踊り-音楽で踊ることは全ての文化でみられる。音楽と踊りのどちらが主かはっきりしないほど多くの社会で音楽と踊りは複雑に絡み合っている。とりわけアフリカ社会では旋律にリズムを与えるのはもっぱら踊りによる。

・語り物-多くの文化で歌や語りを伴う語り物は長い歴史的伝統を持つ。現在の出来事を即興で歌うこともあるが、過去の物語の口頭伝承の担い手である。

・儀式と祭り-宗教儀式や国や地方の儀式。

・戦い-戦いの前に軍隊を鼓舞する、戦場で敵を脅す、軍隊に合図するなど。使用される楽器は様々だが、太鼓,トランペット、金属的な響きの打楽器などが共通する。

・コミュニケーション-アフリカのトーキング・ドラムなど音で会話をすること。微妙な抑揚パターンを備えている言語の民族にとっては、話すことは音楽することと同一で、それを太鼓で表すことは話すことと同じ。

・個人のシンボルー中央平原のアメリカ先住民のサーミ族は、個人が自分の特別な歌であるヨイク(joik)を持つ。個々人が生涯でただ一度幻影を見るとされ、幻影はときに1曲か数曲の自分の歌であったりする。

・少数民族や集団のアイデンティティ-音楽はある特定の民族集団や場所への帰属意識を作るための強力な手段になる。

・商売-世界のあらゆる市場で歌と音楽は商品を売るため、通行人の気を引くように用いられる。

・癒し-伝統的な多くの社会で音楽は癒す機能として役立つ。例えばマリ共和国の社会では、特に太鼓のリズムが生理に影響を及ぼすとされる。癒しの音楽に共通しているのは、単調なリズムを延々と繰り返すことである。

・トランス状態-トランスは一般に宗教的な脈絡の中で起こる。しかし音楽が直接トランス状態を引き起こすと単純に考えるべきではない。音楽の役割はトランスを社会的に適合させるものである。音楽はトランス状態を生み出す要因のひとつであり概して本質的なものであるが、さらに音楽以外の多くの文化要素が重要である。

・宮廷音楽-社会が階級に分かれて発展した場合、そこでは各階級が異なる音楽様式を持つことが多い。特に東アジア文化では社会的に分化した音楽様式が発展した。

・宗教音楽-宗教が音楽を発展させる主力になったり、反対に音楽を禁止する宗教が存在したりする。

・個人の楽しみ-多くの社会で人々は自主的に音楽を楽しみ、歌うこと、踊ることを楽しむ。また、社会の階級化が進むにつれ知識階級が生まれ、個人の楽しみのために聴く「芸術音楽」の発展も促されることになる。

メディアやコンピューターの普及、脳科学の発展、人種やジェンダー感覚の推移などに伴う音楽の役割変化を検討して補足する必要がありそうな気もしますが、音楽が社会で果たしている役割の全体像が分かりやすく提示されています。

グレゴリーが整理した音楽の役割に、白石昌子氏は新たな視点から光をあて、音楽が人間に及ぼす影響を次のように分析しています。

・気持ちを落ち着かせたり、高揚させたりする。呼吸・心拍などの生理的機能に影響する。(子守唄、戦い、癒し、儀式、個人の楽しみ等)
・感情を統合する。気持ちを共有する。(アイデンティティ、儀式と祭り、宗教音楽、戦い等)
・身体の動きに影響を及ぼす。(遊び、仕事歌、踊り、祭り等)
・コード化されて合図になる。(コミュニケーション、商売、戦いの合図等)
・記憶を助ける(語り物等)

「音楽」という巨人の姿をはっきり捕捉したいという気持ちが私の中に根強くあって、これらの整理は大いに響くものがあります。

参考 白石昌子 乳幼児の発達と音楽の関係