16世紀半ばころまでのカトリックのミサや聖務日課やその他の儀式に音楽がふんだんに盛り込まれていたことを先日書きましたが、16世紀半ばころ、その内容に変化が訪れます。
カトリック教会の腐敗や世俗化に対抗してプロテスタントの動きが起こると、カトリック内部でも反宗教改革として様々な見直しが起こり、1563年のトリエント公会議の第22会議から第24会議までの三回において、カトリックの音楽の問題点が討議されました。
そこで問題とされたのは、典礼のテキストが短縮されていること、テキストが多声音楽などで聞き取りにくいこと、教会にふさわしくない歌が挿入されていること、世俗的で長々しいオルガン作品、ミサ典書や聖務日課書の見直しの各点でした。そして次の結論が出されました。
ミサは、すべてがはっきりと正しい速さで行われ、それを聞く人々の耳と心に静かに入り込むことができるようにするべきである。通常、歌はオルガンを伴って執り行われるミサの場合には、世俗的な何ものも取り入れてはならず、ただ賛歌と神への讃美のみを折り込むべきである。…音楽の諸旋法によるこの歌の構成は、決して耳に空虚な快さを与えるものではなく、言葉がすべての人に理解され、それによって聞き手の心が天上の調和を希求し、至福の人々の喜びを思うことへと導かれるように組み立てなくてはならない…オルガン演奏であっても歌であっても、淫らなものや不純なものが混入した音楽はすべて教会から取り除かれなければならない。
このように、カトリック教会音楽は、世俗的要素を取り除いて神聖さを取り戻し、簡素かつ厳粛に執り行われるべきことが明示されたことにより、中世から付け加えられてきた音楽的装飾や芸術的要素は後退することになります。
その結果、具体的には、それまで教会音楽の慣習となっていたトロープス、セクエンツィア、メリスマによる表現が避けられるようになり、使用される楽器は原則としてオルガンのみとされ、歌詞の明瞭さの観点から多声音楽よりも単旋律聖歌が推奨されるようになりました。そして、式次第の全面的見直しとして、「ローマ聖務日課書」(1568)や「ローマミサ典書」(1570)が新たに編集出版され、教会歴の見直し、付加的な儀式の禁止や省略、行列の省略、テキストの改訂、ミサ様式の統一とラテン語化等により、中世以来積み重ねられてきた音楽的要素は変化(消滅、省略、簡素化等)を余儀なくされることになりました。
しかし、トリエント公会議によりカトリック教会音楽は大きな方向変換をしたことは間違いないものの、その後も、世界各地の教会音楽には旧来の音楽が維持されることも多く、禁止された楽器がそのまま使われたり、世俗的な歌や多声音楽も残り続けます。特に、アジアや南米などの布教地では、旧来型の華やかな音楽による布教の必要性が非常に高く、トリエント公会議の方向性とは異なる、旧来型に現地色も取り入れたような独自の音楽的展開も多く見られます。
参考・音楽面からみるイエズス会の東洋宣教 深堀彩香
洋楽伝来史 海老澤有道