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楽器の擬音語3 江戸時代は楽器の擬音語があふれていた

埼玉大学の山口仲美さんの論文(埼玉大学紀要53巻1号2017年)によると、室町時代の狂言歌謡における楽器擬音語の出現率は1.1%だったのに、江戸時代の歌謡集「松の葉」における楽器擬音語出現率は6.4%に跳ね上がり、これは近現代の歌謡曲における出現率0.5%をはるかに上回っており、江戸時代は楽器の擬音語があふれていたそうです。

上記論文からその具体的表現を見てみると、次のような例が多数見つかるそうです。

・堺町木挽町のてんつくてんつく木偶の坊 (締太鼓 東海道中膝栗毛)

・此の間、どろどろ幕開く (大太鼓 歌舞伎脚本集)

・なびけや小松一の枝、つりりんりつりりんり (三味線 松の葉)

・芸子が三味線、トヲチテントヲチテン (三味線 東海道中膝栗毛)

・ベンベラベンベラ、チャンテンチャンテンチャンテンチャンテント無性に引きたつる歌の唱歌はなんともわからず (でたらめな三味線 東海道中膝栗毛)

・ちちんてちちんてちんちり、つてつんちょん、ちりちりちりちり、つんてん (三味線 舌きれ雀)

・おひゃりこひやり、ひゃりこひゃりこひやりひやり、らんらららりつるんろ、るるりやちやららるろ (笛 松の葉)

・れつろれつろつりよれつのれがつれつろ (尺八 松の葉)

・ちゃんちきちゃんちきといふとぜぜくんな (鉦 俳風柳多留)

・らっぱちゃるめら、高音をそらし、ひゃうひゃうとこそ聞こえけれ(ラッパとチャルメラ 国姓爺合戦)

実に多彩で楽しいですね。現代の楽器の音表現をはるかに上回る豊かさがあるように思います。

このように江戸時代になって楽器の擬音語が急激に増加した理由は、①楽器が大衆化して誰もが楽器を入手できるようになり、楽器の習い事が様々な階層で流行したこと、②その楽器習得法として擬音語と奏法を紐付けする唱歌(しょうが)の方法が一般化し、例えば銭湯につかりながら口三味線を歌って練習している人が普通に見られるなど、唱歌の知識と経験が一般的なものになっていたこと、③歌舞伎、寄席、お座敷、旅芸人など、楽器の音を聴く体験が日常にあふれていたこと、の三点にあるようです。

江戸時代って、本当に音楽があふれていたのですね。上流階級だけではなく、庶民全体に音楽が溢れていたということ、それが民の側から自発的に起きていることが、歴史的に意義深いところなんじゃないかと思います。

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