ASMRは音を鑑賞する行為ですから、当然音楽と結びつく可能性があります。音から触感が感じられたり、ゾクゾクするような副交感神経優位な反応があったりと、音楽に新たな方向性をもたらしてくれそうです。実際ASMRと音楽を結合した動画はYouTube上に沢山あります。例えば次のようなものです。
ASMRの音+バイノーラル録音(頭部の音響効果を再現し鼓膜に届く形で録音するもの)+リラックスミュージック という試みの動画 ☟
自動車の移動音+雨の音+オールディーズの古ぼけた音 という試み☟
ささやき声+ラップミュージックという試み☟
リラックスミュージック+タップ音の試み☟
asmr music と入力すると、玉石混交の感はありますが、沢山関連動画が見つかります。この現象が始まってからさほど時間が経っていないので、今後も新たな展開は色々ありそうです。
このような動きは一過性に過ぎないかというと、そうでもないかもと思います。そう感じる理由は、例えばこんなことが思いつきます。
・大きなよく響く音を求めてきた音楽の流れに時代的な変化が生まれていて、小さな音への注目が起きているのかもしれない。
・物を叩いたりはじいたりこすったりした時に出る原始的な音を使用しており、楽器のはじまりに立ち返るような流れも見える。
・デジタル空間に適した音として登場している。音楽の歴史は、教会や宮廷やホールなど視聴空間の変化に対応して変化してきているが、デジタル空間に対応する変化のひとつが起きている可能性がある。自室という小さな空間が集積して同時に世界中に広がるという極小と極大が同時に存在する歴史的にはじめての視聴空間のための音楽。
・単純なタップ音やランダムな雑音などを音楽の要素としており、和音やリズムなどの概念の外側から音楽に変化が起きているのかもしれない。
・個人が音楽を加工することが容易で、パーソナルな音楽を作り楽しむ文化につながる可能性も見える。既存音楽の音量を小さくしたり、フィルターをかけて古めかしくしてみたり、遠くから聞こえる音のようにしてみたり、自然音を付け加えたり、雑音やタップ音などをランダムに入れたりなど、加工のバリエーションが多く、アプリも多様に展開しそう。既存音楽を利用して加工するばかりでなく、自分で作った簡単な主題を入力して楽曲を自動生成するアプリと組み合わせれば、自由自在にパーソナルな音楽を作れるようになり、それらを交換交流するような音楽の世界観もあり得る。
・加工に適する素材を提供したり、加工の組み合わせを提供したりというプロ音楽家の役割が生まれるのかもしれない。
・「闘争と逃走」という高揚感を求める交感神経優位な音楽から、静寂感、落ち着きなどの副交感神経優位な音楽へのシフトがますます起きているのかもしれない。
などなど、大きな流れの変わり目のひとつとして、ASMRというものも出てきているのかもと思うのです。